LINEとInstagramにみるITスタートアップ(その3)。


その1)(その2)で収益、LINEについて書いてきました。

前回のLIMEはモバイルに特化してプラットフォーム化を図っていくタイプであることと、元々NHN Japanという組織としての土壌を持った上で、アプリでテレビCMを使うなどマスマーケティング主流の戦略的な製品でした。



それに対して、これぞ「ITスタートアップ」というものがInstagramです。

Instagramスタンフォード出身のKevin Systromなどが始めたプロジェクトで、いくつか他にあったSNS機能の中から「iPhone」からの「写真共有」にフォーカスしたサービスとして2010年10月にリリースされ、2ヶ月で100万ユーザー、翌年9月までに1000万人を獲得し、今年4月に4000万人突破と発表されたタイミングでAndroid版のリリースも受け更にユーザー数が増加し、現在は8000万人に登り、ほぼ間違い無く年内に1億ユーザーにリーチします。

Instagramの機能自体はシンプルで、iPhoneなどで撮影した写真を「フィルター」で加工して投稿し共有するだけですが、ここまで爆発的に成長したのにはいくつかの理由が合わさっているからです。

  1. 携帯電話のカメラの高機能化に伴い、日常生活で写真を取ることの一般化
  2. iPhoneなどのスマートフォンの普及により携帯からのネットへのアクセスの増加
  3. iPhoneの「アプリ」という機能別の使い分け
  4. Facebookmixiなど先行企業のモバイル対応への遅れ


などが主だった理由かと。
Facebookは一日3億枚の写真がアップロードされるように現在世界最大級のSNSであると同時にインターネット上での写真共有が当たり前のものになり、携帯カメラが高機能になり今までわざわざデジカメで撮るほどのことでもない食べ物やちょっとした街の写真を携帯で撮ることも一般的になっていました。

そんな何気ない写真をちょっとしたフィルターをかけるだけでなんとも「いい感じ」の写真になる気持ちよさは
写真が特別な趣味ではない大半の人達にとって少なくない衝撃だったと思います。


(写真は先週San Franciscoにて撮影。なんかいい感じですよね笑)

そんな「いい感じ」の写真を共有したい!という心理に上手く呼応するようにTwitterFacebookとの連携をシームレスに実現させたところが成功の最大の要因だと思います。
これを可能にしたのも一つのデバイスの中で複数のアプリの連携を可能にするiPhoneなどのスマホの普及でしょう。


ただ、これだけでは単に写真共有アプリが上手く市場に合わせて成功した話です。

Instagramは4月にFacebookに買収されました。
買収額は10億ドル!約8000億円もの買収を実現させたわけですが、驚くべきはリリースからバイアウトまで1年半という期間でも、その買収額でもなく、当時4000万人のユーザーを抱えるInstagramの社員はわずか13人だったということです。

10億ドルもの評価額を受け買収されましたが、Instagram自体は収益を上げてはいません。
有料のフィルターを売っていたわけでも有料会員があったわけでもありません。

そこが社員数にも関わってきますが、スタートアップは数人のメンバーから始まって一般的にはベンチャーキャピタルなどから投資を受け、それで新しい製品の開発やオフィスの賃料、社員の給料を払っていくことになるので、製品を出してから投資された資本が尽きるまでの間に「新たな投資を受ける」か「自力で収益をあげられるように」ならなければ潰れてしまいます。

ただこの「自力で収益を上げる」というのはハードルが高く、その1で書いたようなゲームやEvernoteなどの有料会員との親和性の高いサービスを除いては、課金や有料という時点でユーザーを集めるのが困難になります。

なのでまず「無料で一定のユーザー数を獲得」してから広告や有料化などのマネタイズになっていくのですが、ここまでに消えるスタートアップが山ほど…
また、IPOとなると更にハードルは高く、割合的にはごく一部ですしFacebookをはじめとした最近IPOしたIT企業は苦戦しているようです。

そこで「収益化」「IPO」の他のゴールとして「大企業へのバイアウト」という道があります。

これはFacebookAppleGoogleなどのようにキャッシュを持っている企業が持っていないサービスや機能などを開発し、収益自体は上がっていないけどその「技術」を買ってもらうことで、ここまでたどり着くためにいかに「少人数」で「短期間で規模を拡大」できるかがITベンチャーの鍵になってきます。

Instagramは少人数でFacebookが弱かったモバイルからの写真共有という機能に特化し、ピヴォットを繰り返し短期間のうちにユーザー数を確保したので収益がない状態で10億ドルでの買収が実現しました。

始まりから終わりまでITベンチャーとしてのお手本のような綺麗な流れで一つのゴールまで辿り着いたInstagramのこれからにも注目です。